山のてっぺんにあるものといったら、なーに?
えーと・・・んーと・・・
祠?
いやいや、たしかに祠(ほこら)も山の上によくあるけどさ。そこは忖度しようよ(バシッ)
今日のテーマは何だっけ?
うん。そうだね。「三角点」だよね。
三角点。
三角測量の基準となる、言ってみればただの「目印」でしかないのですが、なぜか山好きが愛してやまない存在です。
三角点は踏んでいいのか悪いのか。ネットでそんな論争が沸き起こったこともありました。
三角点の上に片足立ちして、これでこの山はおれのもんだ、なんて悦に入ってみたり。
そんな写真をうっかりSNSにアップして大炎上、三角点を足で踏むなんてとんでもない、とボッコボコにされたり。
そんなひと騒動が起きるのも、三角点が愛されている証拠、と言えるかもしれません。
三角点が山の頂上にあるものならば、都心にはあまり縁がなさそうですね。
高尾山あたりまで行けば確実にあるのでしょうが、東京駅から一番近い三角点というと、どこになるのでしょうか。
というわけで、今回はこの「三角点」に注目してみましょう。
さて、どうやって探しましょうか。
国土地理院の2万5千分の1地形図をくまなく見て探す?そんな根気はございませんぞ。
と思ったら、なんだ、いいものがあるじゃないですか。
国土地理院「基準点成果等閲覧サービス」。
一等から四等の三角点にチェックを入れて「検索」ポチッ。おぉ、なんて簡単なんだ。
新橋とか永代橋とか、都心にも結構たくさんあるようです。ちょっと意外。東京駅から一番近いのは…。
皇居内に三角点のマークがありますね。三角点の名称は「本丸」。いやぁ「いかにも」って感じの名前ですね。ここが東京駅から一番近いようです。
地図を拡大してみると「本丸」三角点は旧江戸城の天守台(天守閣跡)のあたりにある模様。皇居内といっても、このあたりは「東御苑」、一般公開されているエリアです。よし、見に行ってみましょう。
ところで、この「本丸」三角点は「基準点成果等閲覧サービス」の検索結果によると「三等三角点」なんですね。
なんでしょう、この格落ち感は。
そもそも、一等から四等の違いって何なんでしょうか。ちょっと調べて見ましょう。
国土地理院のWebサイトに解説がありました。
一等三角測量、それは日本全国をおおう地形図(国土の基本図)を作成することを目的として始められました。[中略]これが一等三角点(一等三角本点)と呼ばれるものです(一般には、その後25km間隔の密度になるように設置された一等三角補点を含んで、一等三角点と呼ぶことが多い)。 その後、二等、三等と順次高密度に三角点を設置して、地形図の作成が始まります。 |
つまり、日本全体の大枠となる骨格を確定させるために設置されているのが一等三角点、そこから地域レベルに段階的に分割し、詳細な地図を作っていくもとになるのが二等、三等、四等三角点なのですね。
折角なら、東京駅から一番近い「一等」三角点にも行ってみたいですよね。
先ほどと同じように、基準点成果等閲覧サービスで調べてみましょう。
ありましたね。東京駅の南西に「Ⅰ」のマーク。
三角点の名称は「東京」。おぉ、ここが日本の中で「東京」の場所を確定する三角点なのですね。
地図を拡大してみると…。
港区麻布台二丁目ですか。
この地図では周辺のビルの名前がわかりませんが、Googleマップで同じ場所を調べたところ、すぐ左側のビルは「駐日アフガニスタン大使館」であることがわかりました。このあたり、各国大使館が集まっているエリアなんですよね。
すぐ近くの「日本経緯度原点」というのも気になりますね。まとめて訪問してみることにしましょう。
東京駅から一番近い「三角点」「一等三角点」はわかりました。
でも正直… なんかイメージしていたのと違うんですよね。
やっぱり、三角点といえば「山のてっぺん」じゃないですか。
皇居東御苑も、アフガニスタン大使館も、山ではないですよね。
やっぱり、山頂の三角点を見に行きたいよね…。
というわけで「山頂にある三角点」のうちで、東京駅から一番近いのはどこか、探してみることにしましょう。
まず思い浮かぶのは「愛宕山」です。
東京駅の南西2.4kmにある愛宕山。今や周辺に林立するビル群に背丈で抜かれてしまいましたが、れっきとした自然の山です。江戸の昔には月見の名所として知られ、大正期には日本初のラジオ放送の送信所に選ばれたほど、かつては「見晴らし自慢」だった愛宕山ですから、三角測量のポイントとしてもきっと選ばれていることでしょう。
うん、やっぱりありましたね。予想通りです。
ここより東京駅に近いところに「山頂の三角点」が存在しなければ、東京駅から一番近い山頂の三角点は、この愛宕山の三角点ということになります。大した数ではないはずですので全部当たってみましょう。
基準点成果等閲覧サービスの検索結果画面に、基準点(東京駅丸の内中央口正面玄関)を中心とした、半径2.4kmの円を書き込んでみます。
園内にある三角点は「本丸」「新橋」「南門橋」「二ノ橋」の4つ。
このうち「二ノ橋」は隅田川の河畔、「新橋」と「南門橋」はいずれも新橋駅東側の平坦地です。「本丸」は武蔵野台地の東端にあたり、東京駅から見て高いところにありますが、周辺に比してここだけが高いわけではないですので「山頂」とは言い難いですね。
ということで、確認できました。
東京駅から一番近い「山頂にある三角点」は、愛宕山の三角点。
最後にこちらも訪問することにしましょう。
東京駅の丸の内中央口を出ると、正面にまっすぐ伸びる「行幸通り」の先に皇居の森が見えています。
幅60mを超える広いこの道は、諸外国の大使が着任する際に、天皇陛下への挨拶(信任状捧呈式、というのだとか)に向かうときに馬車(!)で走る道であります。「昔そうだった」ではなく「今もそうしている」というから驚きですが、普段から馬車が行き交っている訳ではないので、華々しく飾られた馬車が走る日はこのあたりの空気が一変するのだろうな…などと想像しながら、のんびり歩いて皇居へと向かいます。
5分ほどでオフィスビル街を抜けると、正面にぱっと皇居の緑が広がります。先ほどまでビルの谷間にいたのに、いきなり空が広くなるのでなんだか頭がくらくらします。突き当たりを右折すれば間もなく大手門。ここから皇居東御苑に入ります。
以前、皇居平川門の目の前のビルに勤めていたことがあって、よく昼休みなどにぶらぶらと東御苑内を散歩していました。私にとってここは「勝手知ったる他家の庭」ってぐらい馴染み深い庭園です。
目をつぶったって歩ける…は言い過ぎですが、迷わず天守台へと向かいます。
皇居の外、東京駅から大手門を入るまでは平坦な道でしたが、東御苑に入ると坂道が目立つようになります。東御苑は大手門から西へ向かって順に標高約5m、約9m、約20mの3つの平らな区画が広がる特徴的な地形をしており、その境目が坂道になっているのです。想像ですが、もともと海岸段丘があったところに、江戸城を整備する際にそれぞれの面を階段皿のようにぴしっと区画したのでしょう。天守閣があったのは、もちろん一番上の20mの面。江戸の町を睥睨する、うってつけの地形だったのでしょう。
天守閣は高さ50m以上の威容を誇ったといいますが、1657年、明暦の大火で焼け落ちてからは再建されず、今に至るまでその土台だけが「天守台」と呼ばれ、名残をとどめています。
さて、天守台にやってまいりました。
地図を見る限り、三角点は天守台の南東角あたり(写真の右手前)にあるようですが、石垣の下には三角点らしきものは見あたりません。
石垣の上にあるのでしょうか。ちょっと行ってみましょう。
天守台の上は柵で囲まれていて、残念ながら南東角には近づけません。
遠目で見ても、三角点らしき四角柱は見当たりませんが… 。
ん?
これですか!
見えている平たい石板はおそらく蓋で、三角点の標柱本体はこの中に収められているのでしょう。
うーん、本体が見られないのは残念!
でも、東京駅から一番近い三角点、確かにここで間違いないでしょう。
基準点成果等閲覧サービスの情報よると、この「本丸」三角点が設置されたのは東京駅開業より12年古い明治35年のこと。高層ビルなどなかった当時、天守台からの展望はさぞ抜群だったことでしょう。都心の測量の基点としてここが選ばれたのも納得ですね。
同じ日。今度は「東京」一等三角点にも行ってみました。
都営地下鉄大江戸線の赤羽橋駅で降りて、現地へ向かいます。
基準点成果等閲覧サービスの地図では、三角点の東側、すぐ近くまで行けそうな道が描かれていますが、現地まで行ってみたらこれは保育園の構内通路で入れませんでした。なので、三角点の北西の道へとぐるっと迂回してみたのですが…。
今度は、アフガニスタン大使館の柵に阻まれました。
「東京」三角点は矢印で示したあたりにあるはずなのですが。先ほどの皇居東御苑内「本丸」三角点とは違って植え込みの中なので、望遠レンズで探してもその姿を捉えることはできませんでした。
警備員さんもいらっしゃいますし、あまりカメラ持ってうろうろすると怪しまれそうです。このあたりで引き上げることにします。今回も残念な結果でしたが、東京駅から一番近い「一等三角点」があるはずの場所を視認できたので良しとしましょう。
さて、探索編で気になっていた、すぐ近くにあるはずの「日本経緯度原点」にも行ってみましょう。
こちらは大使館の敷地の外。大きな看板も立っているのですぐに見つかりました。
日本経緯度原点は「世界で共通に利用できる位置の基準系である世界測地系に基づき、我が国の位置を表す基準」(国土地理院関東地方測量部資料より)なのだそうです。日本経緯度原点で「世界の中の日本の位置」を特定し、三角点で「日本国内の場所」を特定するという役割分担ですね。
「日本経緯度原点」と「一等三角点『東京』」とは東西に70mほど離れています。過去の経緯を調べてみると、まず明治16年に「一等三角点『東京』(旧)」が設置され、翌年にこの三角点の場所が経緯度原点に定められたのだそうです。その後、(旧)の三角点が廃止され、大正13年に改めて設置されたのが現在の東京(大正)三角点とのこと。
素人考えでは、世界地図と日本地図とを連係させるなら両者を同じ場所にした方が都合がよさそうに思えるのですが、なぜ別の場所に設置したのでしょうね。その理由はネット上の調査だけではわかりませんでした。ご存知の方、よろしければ教えてくださいませ。
江戸時代「月見の名所」として知られた愛宕山。その標高は26m、現代のビルでいうと10階にも満たない高さで、南隣に聳え立つ42階建てのタワマンを筆頭に、山より高いビル群にすっかり囲まれてしまっていますが、れっきとした自然の山です。その山頂に設置された三角点を訪ねてまいりました。
もう随分前の話になりますが、仕事の関係先が愛宕山の近くにありまして、そこで開催される月に一度、13時からの定例会議に通っていました。会議がある日は早めに出かけて、時間まで愛宕山でのんびり休憩するのが定番でしたので、このあたりは私にとって懐かしいエリアです。
周辺は虎ノ門ヒルズを筆頭に再開発が著しく、記憶の中の街の姿が塗り替わっていくのにはどこか淋しさも覚えますが、愛宕山の石段の下に立てば、ここだけは変わらぬ鎮守の森。なかなか手ごわい急勾配の86段をひと息に登って石造りの鳥居をくぐれば、あっという間に山頂の愛宕神社に到着です。
お参りを済ませて、さて、三角点ですね。
基準点成果等閲覧サービスの地図によると、先ほどくぐった鳥居の脇にあるようですが…。
ありました。これですね。
幾度となく訪ねている愛宕山。私にとって、かつての日常の風景のはずですが、こんな馴染みの場所に三角点があったとは全く気づきませんでした。
ちょっと蓋を開けさせていただきました。そうそう、これですよ。
皇居東御苑でも、アフガニスタン大使館でも実物は見られなかった三角点の標柱。
ようやく出会えました、三角点らしい三角点。
いかがでしたでしょうか、東京駅から一番近い「三角点」。
興味をお持ちいただけましたら、あなたの目で確かめに行ってみてくださいませ。
最後までお読みいただきありがとうございました。